発声の諸問題を解決しようとする時、イタリア初期バロック時代に生まれた発声の極意「レチタール・カンタンド　Recitar Cantando」を探るのが有効です。
バロック時代は「歌の時代」と言われるほど、声楽の様々なジャンルが生まれ、演奏法、発声法が発展しました。
そこには発声や演奏技術に関する諸問題を解決するヒントが沢山含まれています。
「響きと息の関係が分からない」「支えって何だ？」「声が飛ばない」「高音が苦手」「母音が繋がらない」等の基本的な発声の悩み・・、「レガートってどうやるの」「アジリタが転がらない」「感情移入の仕方が分からない」「やたらとビブラートがかかる」「言葉の発音が不明瞭」等の発声の諸問題から生じる表現法の欠陥・・。
いまさら人に言えない悩み、自分では治せない欠陥、どうやったら良いか方法が分からない問題・・「発声の改善」は普段当たり前にやっている事を、今一度、見直してみる必要があります。
喉や共鳴帯を直すのでは無く、頭の中に有る「考え方」や「イメージ」を変える事が必要なのです。

「どうしたら上手く歌えるか」「感動を伝えるにはどうしたらいいか」・・・
声楽における音楽表現は、多分に声の美しさに因るところが大きいのですが、美声も使い方が悪ければ、その魅力も台無しで、伝わる物も伝わりません。
では「声楽」は何を伝えるのでしょうか？
美しい声、正しい発声法も大切ですが、まずは明瞭に言葉が聞こえ、詩の内容が伝わらなければ感動は有りません。
詩を構成する一つ一つの言葉には、その意味を伝える為の微妙なニュアンスが有ります。しかしその微妙な部分は、実は音符の長短、高低、強弱では完全に表されていないのです。つまり楽譜から読み取れる物だけでは済まないのです。それは作曲家から演奏者に委ねられている部分であり、そこは演奏者の腕の見せ所であり、個性を発揮する部分でもあります。
言葉の持つ三種類のアクセントを知り、楽譜に書かれている音符と実際の発音との相違点を考え、例えばフレーズの中でどの音を長く感じるのか、どの音を微妙に低めに感じるのか等、緻密なフレージングを実践する事で、説得力は上がり、格段に歌は上手くなります。

声楽家は器楽奏者とは違い、演奏する時に少なからず、何らかの「身体表現」をしなくてはなりません。
それは、旋律にのせて「詩を語る」、また物語の一員となって「演技する」という、声楽芸術特有の性質があるからです。
それ故、声楽の勉強は「発声法」「音楽表現」の他に「身体表現」を学ばねばなりません。せっかくの美しい声や音楽も、無表情の顔や、意味の無い動きには台無しになってしまいます。
動きや演技が不可欠な、オペラでの表現は勿論ですが、コンサート時、ピアノ前で様々な制約がある中での表現は、その場の「ノリ」で動いたり、支えや響きなどの「発声」を気にしての不要な動き、緊張で無意識に動いてしまう変な癖・・これらの事は効果が上がらないどころか、却って歌の妨げとなる事が多く見受けられます。動きや演技は、声や歌の「良きサポート」でなくてはなりません。
きちんとした考えや実践的な方法を知り、練習をすることで、必ずそれは舞台上での効果的な表現につながります。
オペラの舞台での「立ち方」「歩き方」「登退場」「居どころ」など、感覚的に捉える空間感覚と移動、また喜怒哀楽を的確に表現する「顔の表情」「手の表情」など、理論的に訓練を重ね体得していきます。